プロローグ
給料・残業・キャリア―――、
かつて会社に不満を抱き続けていた男、“社畜王”ゴールド・ローシャ(きん・ろーしゃ)。
彼の去り際に放った一言は、会社員を転職に駆り立てた。
『俺の仕事か? 欲しけりゃくれてやる。探せ! 全ての残務をそこに置いてきた!!』
社員達はグランドオファー(偉大なる内定)を目指し新しい会社を追いつづける。
世はまさに大転職時代!
第1話 転職の夜明け
――大きくも小さくもない会社。
この会社で2年程前から働いている。
業種は建築関係。
会社はいたって普通だった。
俺は遊び半分なんかじゃない!もう あったまきた!!
覚悟を見せてやる!!!
多忙に多忙を重ねた新入社員・猿田はそう言うと、
上司のデスクに歩み寄っていった。
「もうこれ以上の追加業務はできません。
残業時間は増える一方だし、
他の社員よりも多く雑務を行っているせいで、
クライアントへの納品も満足のいくものが作れないんです。」
この会社の仕事の大枠はBtoCで、クライアントに対しての営業と、
設計部門への図面作図依頼、各業者への見積りの依頼をし、
最終的にはクライアントに提出する見積書の作成を行う。
猿田は若手社員であるため、事務所内の雑務もしなくてはいけないが、
他の先輩社員が猿田の仕事とは別に責務のある業務を行っているかというとそうではなかった。
清掃やごみ捨て、打合せ用ブースの整理整頓、準備、カタログの発注や管理まで、
通常業務のほかに猿田の行わなければいけない業務は積み重なっている。
忘れたり、少し不備があれば先輩社員や上司から叱責を受けるところまでが業務の一部
といっても過言ではない状況であった。
乾杯だ!
猿田の根性とおれの次の仕事に!!
猿田の5つ先輩の赤ヶ峰は転職先が決まっていた。
歳が近かったこともあり、猿田とは師弟のような関係である赤ヶ峰は、
他社からヘッドハンティングを受けて今の会社からの退社が眼前に迫っていた。
僕のことも連れて行ってくださいよ、赤ヶ峰さん。
僕だって転職したいんすよ!
お前はまだ2年目社員だろ!
3年は入った会社に従事しないと何事も続かないぜ!!
要するにお前はガキすぎるんだ。
せめてあと5年続けたら考えてやるよ。
「3年はこの会社で働け。」
随分と時代錯誤ではあるが、これが赤ヶ峰の口癖であった。
しかし猿田の限界は近かった。
終わらない業務、重なる残業、強要されるサービス残業、クライアントからのクレーム、
上司からの理不尽なな叱責、安い給料に、その上人間関係まで良好ではない環境…
(やっぱり赤ヶ峰さんにもう一度相談してみよう。)
猿田は退職間際ですっきりとしたデスクに座っている赤ヶ峰の元へ向かっていった。
来週から有休消化の為、きっと暇なはずだ。
赤ヶ峰さん、少しお時間よろしいでしょうか。
やっぱりこの間の話、もう一度相談させていただけないでしょうか…
失せろ。
赤ヶ峰は怒りに満ちた面持ちで、猿田にそう言った。
猿田はこの時まだ知らなかったのだ。
理不尽意地悪無能上司から、退職目前の赤ヶ峰に仕事が渡されていたことを。
会社を辞めていく人間に、特にその事務所の所員は非常に冷たい。
直属の上司ともなれば責任問題にも問われてしまう。
その上司はアテツケのように赤ヶ峰に仕事を任せたのだ。
単純に嫌がらせである。
猿田は思った。
転職してやる!
絶対にこの会社を辞めてやるんだ!!
1週間後、赤ヶ峰の有休消化前最後の出社日となった。
猿田は、暴言を吐かれはしたものの、お世話になった赤ヶ峰のデスクへと、
最後のあいさつをしに行った。
明日からもうこの会社にはいない赤ヶ峰のデスクには、まだいくつかの資料と、
無能上司から渡されたであろう雑務が少しばかりの山になっている。
(最後まで残業して帰るんだな、赤ヶ峰さん。)
猿田は、退職間際にしては忙しそうにしている赤ヶ峰の手の空いた瞬間を見計らい、声をかけた。
赤ヶ峰さん、いままでありがとうございました。
次の職場でも、健康に気を付けて頑張ってください。
猿田、この間は悪かったな。
いえ、上司に仕事を任されているとは知らずに、
こちらの話しかけるタイミングが悪かったです。
僕も転職をすることを前提に、もう少し頑張ってみます。
ほう…!!
もう転職するのか。
決して綺麗ではない、ただ明日から出社はしないので、奇妙に片付いているデスクに目を落とし、赤ヶ峰はこう続けた。
この残務を、お前に預ける。
…………………………………!!!
数秒の、ただ猿田には数分経ったと思うくらいの間の沈黙が流れ、
猿田は全てを理解した。
赤ヶ峰は、自身の為に、自身の有休消化の為に、自身の転職の為に、
猿田に、かの邪知暴虐な上司から任された仕事をまるっと渡したのだ。
最初から終わらせる気もなく、猿田にすべてを引き継ぐつもりでいたのだ。
赤ヶ峰ぇぇえええええ…!!!
第1話 完
と、まぁ、、、
世界的に有名な少年漫画「◎NE PIECE」のオマージュ的に会社の一風景を書いてみましたが、
こんな会社、どうでしょうか。
「あってたまるか!」
「赤ヶ峰、ひどすぎるだろ!」
「先ず、上司がやばい!」
「サービス残業の時点で会社が終わっている!」
「猿田も猿田で若手社員なんだからもっとやる気を見せろよ!」
なんて言葉が矢継ぎ早に聞こえてきそうですが、
この状況、そんなに珍しくないんじゃないでしょうか。
確かに誇張して書いている部分はございますが、
私の属している会社も大体こんなもんです。
業態、業種に関わらず、
あなたの会社はいかがですか?
まったくの荒唐無稽ということでもないと思います。
と、いうことで、転職を考えて初めているそこのあなた。
この大転職時代だからこそ、今の会社に残るか、転職するか、
選択肢を見つめなおすチャンスです。
次回より、「転職」というテーマで少しずつツラツラと書き進めていきたいと考えています。
(もうオマージュ的な書き方にはなりません、多分、きっと、恐らく…)
一緒に「転職」について学んでいきましょう!
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